私は、車内ではなるべく椅子に座らない主義。
理由は単純、立っているとバラス感覚を養うことが出来るのと、もうひとつは眠って乗り越す恐れがないから。
ある日の
午後10時半過ぎ、一杯機嫌で電車に乗ったとき、かなり混雑した車内で目にした光景。
かなり酩酊している高齢者がドアの側の手すりをつかんで、立っているのがやっとという形で必死でこらえている。電車が動く度に、時には横に座っている女性にもたれかかるような格好。
その側に座っている若い女性は、迷惑そうに体をよじりながらも、携帯から目をはずすことはない。親子の年齢差に見える二人の微妙な雰囲気が車内に映し出される。
最初のうちは、「いい年をして酔っ払ってしまって! シャンとせんか!」と、私は反面教師を見るようで、喝を入れたくなる思いでその男の振る舞いを見ていた。 電車は2駅・3駅と過ぎるが、その光景は変らない。
男の足はおぼつかない。つり革にぶら下がっているが、今にも床に座り込みそう。
それでも女性は知らぬ顔で、携帯に夢中。
ついにそのままの状態で8駅過ぎた。
私のその若い女性に対する気持は、微妙に動いた。
お父さんみたいな人なのに、なんとも思わないのだろうか? そうこうしているうちに、件の女性は9番目の駅で何事もなかったように降りていった。
私は、男性に椅子に座るように勧めた。
するとその男性ははっきりした口調で、「ここはどこですか」
「○○駅ですよ。」
「有難うございました。乗り過ごしてしまいました」と少々照れていた。
次の駅で、向かい側の電車に乗るよう言い伝えてその男性を見送った。
「有難うございました」 とぎこちないが律儀な返事が返ってきた。
件の男性は、他の乗客に迷惑をかけないよう、なるべくドアの側で我慢していたのではないか。
仮に席を譲られた時、どうしただろうか。若い女性に席を譲られ、さっさと座っただろうか。
一方の席をゆずらなかった女性は、代わってあげようという気持は一度も湧かなかったのだろうか。
些細な出来事だけれど、冷たい世相を垣間見るようだった。