我が家から西に向かって約20分くらい歩くと、そこはもう糸島の田園地帯が広がる。そして今、まさに初夏の風物詩「麦秋」が目に飛び込む。
都市に育った方々にはこの麦秋のイメージは想像しにくいかもしれないが、私が子供の頃、農村ではこの時期になるとごく当たり前のように見られた光景。
目の前に広がる麦畑 後方は可也山(糸島富士とも呼ばれる) 「麦秋」の表現は、麦の穂が実って薄茶色に染まる初夏の麦畑が秋の稲田の光景と似ていることから、この5月中・下旬から6月上旬をさす季語として呼ぶようになったという。
この時期はまさに風薫る5月、一般にはのんびりした初夏の風物詩と思われがちだが、農家にとっては短い期間だけど気のもめる時期でもある。
何故かと言えばこの時期農家にとっては、稔った麦を梅雨入り前に収穫してしまわなければならない大事な時期である。もしこの時期に雨の日が重なると、折角実った麦が畑の中で芽を出してしまう「穂発芽」になってしまいかねない。
その一方では、麦を収穫した後すぐに田植えをしなくてはならないので、雨が必要になる時期でもあり、まさに晴れ後雨を期待しなければならない、気のもめる時期と言えそう。
この辺で栽培されている品種は、二条大麦のようだ。
二条大麦は、隣県佐賀県が日本一の産地で、全国の32%の生産高を誇るが、佐賀平野や筑紫平野(つくしへいや)の今頃は、まさに麦秋そのものだろう。
二条大麦と言えばビール&焼酎の原料等に使われる。
そう聞けば、ビールも焼酎も日ごろ愛飲しているお酒だから、この麦がいつしか私の口に入る時があるかも知れないと思うと、なんだか近親感が湧いてくる。
収穫した後の麦わらは昔、麦わら屋根の材料に使ったり、野菜の敷き藁に使ったりもしたが、最近はコンバインで収穫するので、麦わらは小さく刻まれて麦藁細工の品々が消えてなくなった。
子供たちは麦わらで虫かごを作ったりもした。
お馴染みのスボ蒲鉾も消えてしまった。
そして何よりも素朴な思い出は、夏にはなくてはならない麦わら帽子だ。
その麦わら帽子も今では、名ばかりで材料は合成繊維。
素朴さがどんどん消え失せてしまう。
さて「麦秋」で思い出すのは、小津安二郎監督による映画。
若い頃観た映画で、筋書きは覚えていないが俳優「笠智衆」の独特な演技が印象に残っている。
また、麦と言えば火野葦平の小説「麦と兵隊」、次元は違うが最近ではオヨネーズの「麦畑」 等々、麦にまつわる話題を思い出す。
また、当時の池田大蔵大臣が言い放った「貧乏人は麦を食え」は今でも語り草になっている。
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