福岡県志摩町、野北漁港沖にあるコブ島へは、夏になると毎年2~3回はバリつりに渡る。
ところが、ここで今年もまた、昨年に続き、信じられないようなことに出くわしてしまった。
バリ釣りは浮釣りである。
釣りをする人はよくお分かりのことであるが、浮釣りの時は浮の動きに全神経を集中させるので、周りに何かが起きてもほとんど気がつかないことが多い。
バリ釣にはまずまずの条件で、つり始めて間もなく小気味よい当りが来た。いつものとおり、釣り上げた魚はビクにいれ、波で岩角でこすれても切れないような頑丈な紐で結わえて、海中に沈めて活かしておいた。
10時頃だったろうか、お腹はすくし喉も乾いてきたのでビールで喉を潤し、いい気分になって一休みしているとき、ハッと気がつくと、なんと足元にたらしていおたビクを結わえた紐が見えないではないか!
「アレッ」一瞬信じられない出来事に呆然となる。
念のため岩の下を覗き込むと跡形もなく消え去っていた。
竿ケースに縛っていた紐が、波の動きに少しずつ引っ張られ、解けてしまって流されていたのだ。それに気がつかなかったのはうかつであった。
水深3~4mでは探しようがない。全て、後の祭りだ。諦めるしかない。
ビールで出来上がって良い気分も吹っ飛んでしまった。
悔やんでも仕方がないので、また気を取り直して釣りに専念した。釣り上げた魚は仲間のOさんのビクにヤドカリすることにして。
それから、1時間位過ぎただろうか、岩陰からシュノーケルをつけた青年が突然表れて、我々の釣り竿の下を通っていいかという。
つい先ほどまで、周りには船も見えず、他に釣り人のいなかったので、突然の青年の出現には吃驚した。
その青年は獲物入れを持っていなかったので、シュノーケルを使って水中散歩を楽しんでいたのだと思うのだが。
断るどころではない。大袈裟だが、地獄で仏様だ!
どうぞ!と答えるのと同時お願いがあるのだがと、ビクを流してしまった経過を手短に話して、探してもらうことにした。
青年は心よく引き受け周りを探してくれて、ついにビクを探し当ててくれた。
引き上げたビクには、元気なバリがそのまま残っていた。
私は心から感謝の気持をこめて、“有難う”と頭を下げた。
すっかり諦めていたものが思いがけず再び手元に帰ってきた喜びは、たかが魚であっても、言いようもないほど大きいものだと実感した。
青年は何事もなかったかのように岩陰に姿を消して行った。
その後1時間ほどして帰途についたが、島の周りには船も人影も見当たらなかった。あの青年は何処からどのようにして、あのコブ島へ来たのであろうか。不思議な出来事であった。
コブ島のバリ釣りをご笑覧ください