JR九州筑肥線「周船寺駅」のホームから改札口に行く階段の左右に、「おつかれさまでした」と小さくさりげなく書かれたねぎらいの文字が、列車を下りた私の心をいつも和ませてくれる。
きっと私だけではなく、列車を降り立った多くの方の目に入っていることだろう。そしてわずか9文字のねぎらいの文字が目に入った瞬間、口にはしないが私と同じように「 ホッ」とするに違いない。
いつも改札口で「おはようございます」「ありがとうございます」と元気な声をかけてくれる駅員さんの、普段の声かけだけでなく、少しでも乗客の疲れを和らげようとする心遣いが伝わってくる。
最近「ご苦労様」と「お疲れ様」の使い分けができない人が増えているが、「おつかれさまでした」とした駅員さんの気遣いもまた、それとなく伝わってくる。
列車に乗る人も降りる人もみな夫々、楽しいことや悲しいこと、あるいは嬉しい思いやつらい思い、疲れ切ってしまったなどの思いを胸に秘めているに違いない。そんな思いでホームに降り立った時、何気なく目に飛び込んだ「おつかれさまでした」の文字は、一瞬であってもちょっぴり気持ちが和らぐようで嬉しい。
JR周船寺駅(すせんじえき)ホーム西側の階段 筑肥線(ちくひせん)と言ってもご存じない方が多いと思うが、福岡空港から博多駅経由で福岡市西区姪浜までの地下鉄空港線と相互乗り入れしている、姪浜駅から佐賀県唐津市の唐津駅まで走るローカル線。
この周船寺駅界隈は福岡市の西端に位置し、九州大学の伊都キャンパスへの移転に伴い、最近急速に都市化が進んでいる地域である。その九大キャンパスに最も近い駅でありかつ糸島観光の入り口でもあるこの「周船寺駅」界隈は、なぜか開発が遅れてしまっている。
それに引き換え周船寺駅の東側の田んぼの中にポツンとできた新駅「九大学研都市駅」周辺は、この十数年間に、あれよあれよと言う間にマンションが林立する街に成長している。それとは対照的に、時流に乗り損ねてしまった寂しい町の中に取り残された格好の周船寺駅は、旧態依然の佇まいを残していて、乗降客は年々増えているにもかかわらず施設の面では、決して乗客にやさしい駅だとは思えない。
そんな町の小さな「周船寺駅」であるが、窓越しに改札口を見守るようなよくある駅の光景とは異なり、そこで働く駅員さんの精いっぱいのサービスで、いつも暖かい雰囲気に包まれている。そうした日ごろの心掛けが、冒頭に書いた小さな空間を無駄にしないで「おつかれさまでした」と乗客をねぎらう行動に繋がったのだろう。
「ななつ星in九州」や都心のマンション開発など富裕層を対象にした経営戦略が目立つ昨今のJR九州であるが、この小さな駅の駅員さんが示すささやかなサービスが、一般乗客の利便性に富んだ駅の施設改善や列車運行へとつながっていくことを願ってやまない。
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